イラブウナギ

 昔、初めて沖縄の那覇へ行った時、国際市場でとぐろを巻いた蛇の干物を売っているのを見た。イラブウナギという海蛇で、高級な食材らしい。
 二、三日して久高島へ行ったが、このウナギの干物をつくるイラブ小屋というのを見たから、那覇へ帰って、とぐろを巻いているやつを買ってみた。
 小岩の「楊州飯店」へ持ち込んでスープにしてもらったが、味は身欠き鰊のようだった。たいそうアクが出て、戻すのに大変な苦労をした、と奥さんのハッチャンが眉を顰めて語っていた。

蓮根

 中国料理は油っこいものばかりだと思っている人が多いが、そうでない。
 旬の蓮根を十分に煮て、ホコホコして、少し粘りがあるくらいにする。これを切って黒酢をかけただけというのも、立派な中国料理である。錦糸町の「天府酒楼」で食べたが、この料理は材料が新鮮であることを必要とする。

蕗の薹

 五月の連休に微温湯温泉へ来てみたら、そこいらじゅうに蕗の薹が出ている。もう花が開いているけれど、なるべく若い、たおやかなのを選んで採って来た。厨から味噌をもらい、ばっけ味噌にして食べる。苦いが、香りは上々だ。
 これを下物(さかな)に「栄川」のワンカップを飲んだ。これぞ人間の美味也。

東郷神社の甘酒

 昔、原宿に住んでいた頃、毎年大晦日には友達がわが家に集まり、新年を迎えると東郷神社へ初詣に行った。
 その頃はまだこの神社へ初詣に来る人も少なく、空いていて、神さびた雰囲気もあり、振舞ってくれる甘酒もしみじみと美味かった。

紅葉の天麩羅

 昔、友人の婚礼で大阪へ行き、温泉のある箕面観光ホテルに泊まった。
 最寄りの駅からこのホテルへ行く道に紅葉の天麩羅を売る店があり、ひとつ買ってみた。かりんとうのように硬く揚がっていて、味はべつにどうということもない。紅葉は紅葉である。