「栄川」の花見

 ゴールデンウイークに福島の微温湯温泉へ来たら、道沿いに植わっている大山桜の並木が満開になった。
 今日は暖かいから、花見をしようと思う。
 帳場にいって、「栄川」のワンカップと麒麟ビールの缶、それに少しのつまみをもらい、小盆にのせて、良さそうな枝の下へしずしずと運んでゆく。
 蕗の薹はもう背が高くなった。宿の庭のあちこちには、地面のちょうど蕗の薹くらいの高さに、カスミザクラの薄紫の花が咲いている。大山桜はソメイヨシノよりやや紅が濃く、赤みをおびた若葉と花がいちどきに出る。
 草の上に寝転んで見ると、白い雲の流れる青空を背に、こまやかな花の枝が美しい。日はもう傾いて、輝やかな日が斜めに射している。
 花盛りの桜の樹と一緒にいると、大勢の家族といるような気がする。この花がいちどきに散れば、それは寂しいことだと考えていると、風が出て来て、空が暗くなった。