ソーホーの鮑

 昔、初めてロンドンへ行った時、店の名は忘れたが、一人でソーホーの広東料理屋に入った。旅行案内書に載っている高級店だった。
 広い店内に客はわたしと、遠くの隅にもう一人、イギリス人とおぼしき髭の紳士がいるだけだった。
 わたしは家鴨の冷製とアワビを塩味で煮たのを注文した。いずれも非常に薄味で驚いたが、のちに香港へ行った時、同じような薄味だと思った。